農作業と地域コミュニティ(2025年6月発行)

田植の時期が来ました。モロヘイヤやエゴマを栽培するとき、つまり畑作ではそれほど意識しないのですが、稲作では「水の流れ」が大変重要です。私たちが稲作をする地域は地下水を使います。ポンプで汲み上げ、その水が川に至るまで、水路の両側にある田で分け合います。ポンプに近い側が水取りに有利なのは言うまでもありません。同時に取水すれば、流れの下側にある田には、なかなか水が入って来ません。

けれど、そこにあるのは「競争」ではなく、気遣いの空気なのです。上側の田を作る農家は、水が取れたらすぐに取水口を閉め、下側に水が行きやすいようにしますし、ゴミや雑草の種などが流れないように注意します。下側の農家も、上側の農家の作業進行状況を見ながら、適切なときに水が取れるように準備をします。こういった雰囲気、一体感、あ・うんの呼吸のようなものが稲作にはあり、長く畑作だけをしてきた私たちにとってはとても新鮮です。この雰囲気が村の共同体感覚をつくって来たのだと思いますし、逆に規律やルールを破ると「村八分」というような制裁もあったのでしょう。有機栽培では除草剤を使わないので、どうしても雑草が伸びてきてしまうのですが、ある程度は仕方ないと思っていた部分もあります。ただ、4年前から稲作を始め、自分たちもなんとなくこの「気遣いの空気」を強く感じるようになりました。令和の時代には流行らないような「忖度」も必要ですが、これはこれで、田舎の生き方として重要な要素ではないかと納得しています。