出雲大社観光ぶどう園(2021年6月発行)

島根県は全国有数のデラウェアの産地で、その栽培には65年もの歴史があり、特に出雲平野で盛んに栽培されています。出雲大社周辺にもたくさんのぶどうハウスがあり、その中に、ぶどう狩りができる『大社観光ぶどう園』があります。代表の伊藤さんは関西でメーカーの営業マンをされていましたが、Uターンで出雲に帰り、ぶどう農家に転身されました。今回は、『大社観光ぶどう園』を訪ね、伊藤 康浩さんにお話を伺いました。

あけみ「伊藤さんは出雲出身で、高校入学以降はずっと関西で生活されていたそうですが、なぜ出雲で農業をしようと思われたのですか?」
伊藤さん「社会人になってしばらく経った時から、いつかは自然に恵まれた出雲に帰りたいとの思いがあり、出雲でどのように生きて行きたいかをずっと考えていました。農業に興味があったので、農業に関わりながら暮らすのが一番いいなと思い、帰ろうと決めた当初は、雑貨屋をしながら土・日は朝市で農産品を売りたいと考えていました。しかし、より具体的に考えるうち、できたモノを売るのではなく自分が作った農産品を売りたいと考えるようになりました」
あけみ「農産品目にもいろいろありますが、ぶどうを選ばれたのは、ぶどうがお好きだったからですか?」
伊藤さん「帰る前にいろいろな人に相談したところ、出雲で農業を始めるならぶどうが良いとアドバイスされたからです。その理由として、出雲はぶどうの産地でサポートが充実していることと、少ない初期投資で始められることが挙げられました。
出雲に帰り実際に就農してみると、サポートの面では、『出雲市アグリビジネススクール』で1年にわたって栽培技術を学び、同時に農家さんで研修を行なうことにより、ぶどう栽培の知識がまったくなかった私でも立派なぶどうが作れるようになりました。初期投資の面では、私が帰ってきた2010年前後は栽培を辞めたぶどうのハウスが転々とあり、“居抜き”のような形で少ない初期投資で済みました。
まずは各所に点々とあるビニールハウス5枚(1枚は1,000㎡)から栽培を始めました」
あけみ「旬の走りのものは希少価値があり価格が高くなると聞きます。今人気のシャインマスカットは5月頃から出ていますが、1キロあたり1万5,000円もするとネットで見ました。こちらは走りの時期の出荷はされないのですか?」
伊藤さん「ぶどうの作型には加温栽培、無加温栽培、露地栽培の3つがあり、加温栽培は出荷時期を早めるために行ないます。しかし、加温に重油を使うことで環境に負荷をかけてしまううえ、作業が複雑になることで働き手にも無理がかかります。うちではなるべく自然に近い形での農業をしたいと考えているので、基本的に無加温で栽培しており、シャインマスカットの出荷は盆明け頃になります。さまざまな事情でここ2シーズンは、少しのハウスに限り加温しているのですが、来年からは再び加温をやめる予定です。
また、ぶどうを作り始めた頃は農薬をほとんど使わないことをウリにしていましたが、虫を殺さないと葉っぱを食べられることでぶどうの木自体が弱ってしまうので、現在は虫と上手に付き合いながら、なるべく少量の農薬を使っています」

あけみ「観光のぶどう狩りは手間をとられリスクも大きいと思いますが、なぜ続けておられますか?」
伊藤さん「関西に住んでいた時に、三重県にある『伊賀の里 モクモク手づくりファーム』が好きで、そこの年間会員になって通っていました。
自然とふれ合いながら農業体験ができたり、レストランで農園の野菜を食べたりできる施設で、こんなにワクワクできる施設を自分でもできたらいいなと思っていました。
私は緑いっぱいの出雲の生まれですが、出雲に住んでいた子供の頃、自然とふれ合う機会は意外とありませんでした。
私は、農業は自然とは言えないけれど、自然と繋がるツールと捉えていて、多くの人たちに農業を通して自然とふれ合っていただきたいと考えています。ぶどう狩りはレジャーですが、農作業でもあり、当園のぶどう狩りを通して楽しく自然とふれ合っていただき、自然に興味を持っていただければうれしいです。
また、お客さまと対話しながら販売をするというのも私のこだわりの1つで、お客さまとふれ合うことができる観光ぶどう園は採算が合わなかった頃もありましたが、やめようとは思いませんでした」
あけみ「観光ぶどう園をしていて感動することはどんなことですか?」
伊藤さん「子供会で毎年来てくださったり、県外の方が年に1回ここを目的に出雲に来てくださったり、年に何度もぶどう狩りに来てくださったり、お客さまがリピートで来てくださると本当に感動します。スタッフみんなで一生懸命ぶどうを作っているので、たくさんの方に来ていただきたいです」

伊藤代表のお話を聞き、作物の収穫を通して、大人も子供も食の大切さを考えるようになるのかもしれないなと思いました。今年は私も久しぶりに、ぶどう狩りをしてみたいと思います。(あけみ)

作られるぶどうは、デラウエア、シャインマスカット、ピオーネ、スチューベン、クィーンニーナ、ブラックオリンピア、紫苑など。時期によってぶどうの品種が変わります。

食用ぶどうになるのは、ほんの先端の部分だけ。

『大社観光ぶどう園』の美しく、美味しいぶどう作りの秘訣は、とにかく作業適期にこだわること。
ぶどう栽培には剪定、摘穂、摘心、摘粒、摘房など、収穫までにたくさんの作業があります。そのすべてに最適の時期があり、「今!!」が大事。その時期、タイミングを絶対に逃さないことが良質のぶどうを作る秘訣だそう。

島根県オリジナルぶどう  『神紅』

島根県が約10年の歳月をかけて開発したぶどう『神紅』は、“神様が集まる国の紅いぶどう”の意味があるそうです。糖度がとても高く20度以上もあり、皮ごと食べられます。昨年から販売が始まり、今年から本格的に市場へ出回ります。