コメ業界はハイテク?ローテク?(2021年8月更新)

前回、モロヘイヤやエゴマといったマイナー野菜の栽培と、日本一の栽培量を誇る稲作とでは、特に機械化・化学技術という面で大きな差があるというお話をさせていただいたのですが、今回は、それほどまでに発達しているコメ業界に、実はとんでもなく古いものがあった!というお話をさせていただきます。

弊社は昨年から稲作に取り組んでおり、将来的には有機栽培で作った高品質なお米をお客さまへ直接販売したいとの思いがあります。お米の場合、高品質の証となるのは法律で定められた制度である「産地、品種、産年、等級」を検査員が決定した『検査米』の認証です。そこで、私自身が『検査米』の認定ができるよう、『農産物検査員』の資格取得のための研修に参加してきました。2週間の研修と、その後に受けた試験にめでたく合格し、あとは今年のお米の収穫を待って、実地研修をするだけという段階です。

ところで皆さまは、“検査米”“無検査米”と聞き、どんな検査をしていると想像されるでしょうか?おそらく残留農薬、美味しさや食味を検査し、検査結果が良好なものから一等米、二等米と格付するのが検査であり、検査も受けていない「ヤミ米」のようなものが無検査米、といったイメージが一般的ではないでしょうか。実は、まったく違います。検査をするのは、お米の品種確認と見た目、これだけです。つまり、“コシヒカリ”や“あきたこまち”という品種であって、見た目の熟し度合いが一定以上で、虫食いや異物の混入がなければそれは一等米、見た目が劣るものが二等米、三等米となります。『農産物検査員』が米を見て、見た目が悪いものや未熟な米粒の割合が30%以下であれば一等米であるなど、あくまで目で見た判断で認証します。

つまり「品種が正しくて見た目が良ければ、味は良いに決まってる」ともいえる制度で、食味や残留農薬、成分などは調査しません。

昭和26年に、主食である米の流通を円滑に適正に保ちつつ、消費者に対して品質を担保するために始まった制度のようで、当時は食味や残留農薬、成分を調査することが技術的に難しかったこともあって、このような検査方法になったのだろうと想像します。しかし、70年近く経ってもそのやり方がほとんど変わることなく続いており、画像からの顔認識で数万人から一人を探せるこの令和の時代に、人が目視と感性で米の一等、二等をサンプル調査で決めるということにかなり驚きました。「画像認識アプリを使えば、これくらいはAIが一瞬にして判別してくれるのになぁ」と、ピンセットで米粒をより分けながら、切ない気持ちにもなりました。

『検査米』の認証制度は消費者のために存在する制度ですが、今の消費者が求める検査はできていないのではないかと思います。今後弊社も『検査米』認証は行ないますが、法律で定められたものにこだわらず、必要な検査を取り入れていきたいと思います。

米の栽培を通じて「なんてハイテクなんだ!」と思った直後に検査で「なんてローテクなんだ!」と感じる出来事が続き、時代の進化に合わせてきた稲作技術と、それに合わせられないでいる法律や制度が両極端に存在することに驚いた『農産物検査員研修』でした。