島根発 クラフトコーラ(2022年2月発行)

全国的に耕作放棄地が問題となっていますが、出雲地方でも農家の高齢化や後継者不足などから耕作放棄地が年々増加しています。その耕作放棄地を利用してスパイスとなる作物を無農薬・無化学肥料で育て、それらを原材料としたスパイス製品を製造・販売している『出雲SPICE LAB.』という会社があります。今回は雲南市大東町にある『出雲SPICE LAB.』を訪ね、山田 健太郎 代表にお話を伺いました。

あけみ「山田さんは大阪出身で東京の大学を卒業され島根とは縁がなさそうですが、どうして島根に来られたのですか?」


山田さん「島根の友人が農業で起業したので、それが縁です。僕は、大学卒業後、東京の会社に入社しました。しかし仕事が激務で、入社してすぐに『辞めてやる!』と思いました。でも、なかなか辞めることができず、なぜ辞められないのかを考えてみると、辞めてお給料がなくなるのが怖いからだということに気づきました。なぜ、お給料がなくなると怖いのかを考え、導き出した答えは『お金に縛られているから』というものでした。当時は、必要なものすべてをお金で買う、つまり、お金がないと生きていけない状況になっており、これが原因だなと思いました。そこで、お金に縛られない生活をするためにはどうしたらいいかを考えたところ、自分で何かを生産することが必要だと思いました。そして、手をつけられそうだったのが農業だったので、貸し農園を借りて週末農業を始めました。
週末農業は楽しく、野菜を作るうちに『こうやって生きる力をつけていけばいいんだ』という道筋が見えました。でも、農業をどうやって始めたらよいのかは全然わからなくて、始め方を模索していました。そんな折に島根の友人が『島根に来て農業をやらないか』と誘ってくれたので、しばらくは会社を辞めずに、雲南市へ通って人の話を聞いたりものを見たりしながら、自分が雲南市で農業をやっていけるかどうかを探りました。そして、何とかやっていけそうだったので会社を辞め、まずは、雲南市の『地域おこし協力隊』としてここへやってきました」あけみ「作物としてスパイスを選ばれたのはどうしてですか?」
山田さん「大学生の頃、地雷原などのような人間が作り出した人工物に起因する社会問題に興味があり世界の旅に出ましたが、旅の途中で社会問題よりも自然や環境にどんどん興味がわいたので、旅の目的も変わっていきました。
その旅の中でもスパイスに特に興味を持ちました。スパイスは、訪れた50カ国のほぼすべての国で料理や飲み物に使われており、王宮のあった街では王宮で使われていたスパイスがベースだったり、ダウンタウンへ行くと低価格のスパイスがベースだったり。チャイひとつとっても、場所が変わると味もどんどん変わっていきます。スパイスはとても面白いと思いました。島根で農業を始めるにあたり、旅で興味を持ったスパイスを栽培してみたいと思い、さらに、そのスパイスを原材料とした製品を作りたいと思いました」
あけみ「私はそもそもコーラといえばコカコーラというイメージしかなかったので、コーラがスパイスでできていることさえ知りませんでした。最初にこちらのクラフトコーラを見つけた時、コーラが自分で作れることに驚き、裏ラベルを見ると島根県雲南市の会社の製品で、出雲地方にこんなお洒落で楽しい製品があることに再び驚きました。
どうしてクラフトコーラを作り始めたのですか?」
山田さん「まだスパイス製品を作っていなかった頃からお客さまの声をお聞きしたくて、出雲市で開催されているサンデーマーケットに出店していました。そこでは自分でブレンドしたスパイスのドリンクをカップで販売していましたが、ほとんど売れませんでした。たまに立ち止まってくれる人もいましたが『薬ですか?カレーですか?』と聞かれるだけで、結局売れません。つまり、どこのどういう人かわからない僕が、飲んだことのない飲み物を売っていても購買にはつながらないのです。そこで、スパイスをコーラにして製品化することにしました。コーラはほとんどの人が味が何となくわかり、そのうえ手作りとなるとめずらしく『飲んでみるか』となります。クラフトコーラを作っている会社として『出雲SPICE LAB.』の認知度が上がれば、その後に次の製品を発売しても売れるのではないかと思いました。まずは、信頼をどこまで上げられるかが勝負と思い、クラフトコーラに賭けてみようと思いました。
クラフトコーラは地元をはじめとしたテレビや雑誌などで採り上げられ、たくさんの人に知っていただくことができました。現在、次の製品としてスパイスカレーキットを販売しており、好評を得ています」
あけみ「今後、新製品を出される予定はありますか?」
山田さん「コーラ、カレーに続く第三の矢となる製品を現在検討中です。実は、会社を大きくしたいとか農園を大きくしたいとかは考えていなくて、どちらかといえば、地域課題の解決を会社のテーマにしたいとの思いがあります。実際に、弊社の農園はすべて耕作放棄地を活用したもので、土の肥えたよい畑は他の人が使ってくれればいい
と思っています。僕たちの役目は、僕たちが面白可笑しく農業をやることによって、地元の人に『面白そうだから自分もスパイスを育ててみたい』と思ってもらうことだと考えています。地元の皆さんが今作っている畑の一部を使いプラスαでスパイスを作るといった新しい農業の形が生まれ、だんだんスパイスの輪が広がっていくのが、僕たちの理想の形です。今、ゆっくりゆっくり、そこに近づいているような気がしています」