コウノトリとの共生-出雲平野に海くんたちがやってきた-(2021年1月発行)

弊社の田んぼに9月下旬、2羽のコウノトリが飛来しました。その後、約1ヵ月間、稲刈り後の田んぼで餌を啄む姿を見ることができました。出雲市の隣、雲南市では4年前にコウノトリのカップルが飛来して営巣し、以来毎年、雛が巣立っているとか。コウノトリは弊社の田んぼの近くにも巣を作ってくれる可能性はあるのでしょうか?今回は公益財団法人「日本野鳥の会」副会長である佐藤仁志さんを出雲市のご自宅を訪ね、コウノトリについてお話を伺いました。

あけみ、「9月頃、弊社の田んぼに突然2羽のコウノトリが飛来し、とても驚きました。隣の雲南市ではコウノトリが営巣し、毎年雛が巣立っているので、出雲市にも住み着いてくれればいいなと思い見守っていたのですが10月中旬ごろからまったく姿が見かけなくなりました。あのコウノトリたちはどこから来て、どこへ行ったのでしょうか。」

佐藤さん「日本にはかつて、野生のコウノトリあちこちで生息していましたが、1971年に絶滅しました。絶滅したのは、狩猟の対象になりやすかったこと、環境破壊で営巣地が少なかったこと、農業で農薬を大量に使い始め餌となる生き物が少なくなったこと、などが理由と言われています1985年、コウノトリが最後に残っていた兵庫県豊岡市で、ロシアから譲り受けた同じ種類のコウノトリで飼育下での繁殖を始めました。以来、豊岡市ではコウノトリを野生復帰させるための様々な取組みが行われています。2005年には放鳥が始められ、2年後には野生での繁殖に成功しました。現在は日本各地で放鳥がおこなわれ、自然繁殖が確認されています。日本の自然環境の中に生息するコウノトリは221羽にもなり、そのほとんどの個体に足環が付けられ行動が追跡されています。足環から判断すると、御社の田んぼがある出雲平野に飛来したコウノトリは、徳島県鳴門市で巣立った海くんと、2020年に京都府京丹後市で巣立った鳥で、この個体にはコロナの影響で足環がついていません。現在はそれぞれ違う場所へ移動してしまったようです。」

あけみ「名前もわかるんですね!海くんたちは餌場として飛来しただけで、弊社の田んぼがる出雲平野は営巣地としては気にいらなかったということですね。営巣地に選んでもらうにはどうしたらいいですか?」

佐藤さん「1回飛来してくれたということは、環境次第で営巣する可能性もあるということです。営巣地として必要な条件は一年を通して餌が豊富にあることです。出雲平野にコウノトリが飛来したのは秋なので、コウノトリの餌となるバッタやカエル、ヘビなどがたくさんいました。しかし、冬のシーズンになるとそれらの生き物はいなくなります。冬場、肉食であるコウノトリの餌として考えられるのはドジョウです。しかし、圃場整備された田んぼにはドジョウはほとんどいません。ドジョウを田んぼに復活させることができるがどうかがコウノトリが営巣してくれるかどうかのポイントになると思います。私も今、どうやったらドジョウを田んぼに復活させられるかを考えているところで、この冬から実際に田んぼで実験をする予定です。」

あけみ「コウノトリがどのようなところに飛来するのでしょうか?」

佐藤さん「コウノトリが飛来するところは環境がよく似ています。空からどう見えるかで決めているようです。基本的には、大きな川や水域が近くにあるところに降りるようです。営巣するのは一年を通じて餌に困らない場所で、営巣地周辺には生物多様性に富んだ田んぼなどがあります。」

あけみ「雲南市にある2羽のコウノトリは同じ場所で何回も子育てしていますが、雲南市のどのようなところが気に入っているのでしょうか?」

佐藤さん「2羽には名前が付けられていて、オスのげんき君は2014年に福井県越前市で放鳥されました。放鳥された時からソーラー式の発信機をつけているので、足どりがわかるようになっています。放鳥されてからは、北は宮城県、南は長崎県まで移動をくり返し、海を渡って北朝鮮にまで行っていました。1年以上におよぶ冒険旅行で、営巣するのに最も良いと選んだ場所が雲南市でした。メスのポンスニは豊岡市で放鳥されました。韓国に渡り滞在していた時に現地の人に愛され、名前を付けてもらいました。げんき君が最初に奥さんに迎えたのは違う個体でしたが、猟師による誤射で奥さんが命を落としてしまい、その後ポンスニと出会い、再び雲南市に連れて帰ってきました。雲南市には生物の多様性に富んだ田んぼが多く残っており食べるものに困らないようで、2羽は毎年4羽ずつの雛を育て上げます。毎年同じ場所で営巣し、4年間続けて4羽の雛が巣立ったのは雲南市だけで、大変めずらしく注目されています。雲南市は現在、生物多様性のある水辺環境の保全など、コウノトリとの共生をために様々な努力をされており、コウノトリにとって暮らしやすい環境になっているのではないでしょうか」

コウノトリが営巣する環境づくりは、田んぼを持つ人の小さな努力でできるそうです。弊社もアドバイスをいただきながら、できることからやっていければと思います。(あけみ)