島根県は県土の約8割を森林が占めており、日本でも有数の森林県です。かつては森林の木を薪や炭などの燃料に使っていたため森林の管理が行き届いていました。しかし、木が燃料として使われなくなったことと、1960年頃からは輸入木材が増えたことで森林の管理は行われなくなり、荒れた山が目立つようになりました。山が荒れることにより、イノシシやシカ、サルが里に下りてくるようになり、農作物の食害も年々増しています。荒れた山を昔のような山に戻すには、木を伐採して使い、その収益を再び森林整備に投資する「林業の循環システム」を築くことが大切だそうです。そこで私がいま注目しているのは、薪を燃やして暖をとる薪ストーブです。薪ストーブのある暮らしってどんなものでしょう。今回は、松江市玉湯町にある薪ストーブ専門店「Rustic Craft」ショールームを訪ね、オーナーの戸谷淳さんにお話を伺いました。
あけみ「私は日頃、YouTubeで薪ストーブの炎がひたすら映る動画を見ています。見ているととても癒され、その動画をつまみにお酒が飲めるほどです(笑)。でも今日こちらで本物の薪ストーブにあたると陽だまりにいるような暖かさで、バチバチと奥行きのある音と共に木が燃える匂いがして・・YouTubeの動画とはまったく違いますね。本物の素晴らしさに感動しました。薪ストーブは今、とても人気があるそうですが、薪ストーブの魅力とはどんなところですか?」
戸谷さん「薪ストーブのユーザーは少しずつ、安定的に増えていますが、薪ストーブの魅力というより、薪ストーブを活用する生活に魅力を感じている方が多いようです。『薪は三度、人を温める』と言われています。薪を割って温まり、その薪を焚いた火で温まり、その火で作った料理で温まる、と。薪ストーブのユーザーはその3つのすべてに魅力を感じていらっしゃるようです。そうは言っても、薪ストーブは決して便利なものではありません。休日は薪の準備や薪ストーブのメンテナンスにあてなければならなかったり、薪ストーブを使ってのお料理は薪の入れ具合や空気の入れ具合によって火加減を調整しなければならなかったり。それぞれにものすごく手間と労力がかかり、勉強も必要です。その大変なことを楽しめる人でないと、薪ストーブはおすすめしません。手間と労力はかかりますが、自然と触れ合うことが子供の『生きる力』を育むことに繋がったり、薪ストーブを囲んでの家族団欒の時間が持てたり、薪ストーブライフを楽しむという同じ趣味の仲間ができたりと、薪ストーブは何にも代えがたいものです。」
あけみ「島根には手入れをされていない山がたくさんありますよね。でも、たと荒れていても山にはそれぞれの持ち主があり、勝手に木を切ることはできません。ユーザーの皆さんはどのように準備されているのですか?」
戸谷さん「弊社では薪の販売もしていますが、毎年2月3月に、みんなで翌シーズンの薪作りをする薪割り会を開催しています。ユーザー同士が声をかけ合い『親戚の親戚が木を切ったから分け合って薪を作ろう』と、グループで薪を作る方もいらっしゃいますし、Iターンで山付きの家を買って都会から移住し、薪ストーブをつけられる方もいらっしゃいます。島根県は薪を手に入れるには恵まれた環境だと思います。」
あけみ「薪ストーブを焚くと煙が出るので、二酸化炭素が環境によくないのではと思いがちですが、実際はどうですか?」
戸谷さん「木を燃やすことによって出る二酸化炭素は環境によくないと見られがちですが、木の燃焼によって出る二酸化炭素は木が本来持っていたもので、次に生まれた木が太陽と水と二酸化炭素で光合成するために必要な量しか出しません。しかし、石油や石炭による二酸化炭素は違います。石油を燃やすと二酸化炭素が出ますが、出たものが地表から取り込まれ再び石油になればいいのですが、仮に地表から取り込まれたとしても、再び石油を作るを作るのに数億年の長い年月がかかります。石油・石炭に関しては、温室効果ガスが出っぱなしになっているのです。木は植えてから30年で成長し薪になるという、とてもスパンの短い再生産可能、持続可能なエネルギーです。そのエネルギーをフル活用して循環されることで石油・石炭のエネルギーを使わなければ、温室効果ガスを減らしていくことに繋がります。薪ストーブは地球環境に悪くないどころか、むしろ貢献する暖房器具と言えます。」
あけみ「今、どんな薪ストーブがおすすめですか?」
戸谷さん「日本には薪ストーブの排煙規制はありませんが、アメリカではとても厳しく、アメリカ製の薪ストーブには排煙を綺麗にする触媒が付いたものがあります。これから薪ストーブをつけることをお考えの方は、排煙が超クリーンな触媒付きのものをオススメします。」
暖房器具に止まらず、調理器具であり、暮らしを豊かにもしてくれる薪ストーブ。普通に生活しながら、山林の整備もカーボンニュートラルも自然にできてしまう薪ストーブライフは、眩しいほど魅力的でした。(あけみ)