出雲のハチミツ(2020年9月発行)

日本には昔から農地のまわりに森や林があり、そこで暮らすミツバチや蝶が畑を訪れ、作物の受粉を手伝ってくれていました。しかし今、農薬やウイルスの影響で虫たちの数が激減し、受粉が難しくなっているそうです。今回は出雲市で西洋ミツバチを飼育し、ハチミツを生産・販売されている「陽菜のはちみつ」を訪ね、代表の渡部康夫さんにお話を伺いました。

あけみ「渡部さんは以前、出雲市にある衣料品の卸などをおこなう会社で役員をされていたそうですが、会社役員を辞めて養蜂を始められたのには、どのような理由があるのですか?」

渡部さん「55歳ぐらいの時から、これから”人生100年時代”に向かっていくのに、仕事をやめた後、どのように生きて以降かを考え始めました。仕事にはやり甲斐を感じていましたが、定年退職後に生き甲斐になるものを何か持ちたいと思ったのです。農業など、自分にできることをいろいろ調べていく中で、果物や野菜はハチなどの昆虫が受粉を媒介しなければ実がならないことを再認識し、ミツバチの営みにとても興味を持つようになりました。そこで、飼育キットを買って実際に西洋ミツバチを飼育しはじめたところとても面白くなり、62歳の時に仕事を辞めて、本格的に養蜂をはじめました」

あけみ「養蜂はどうやって学ばれましたか?」

渡部さん「水稲や畑は地域の農業教室やJAさんなのが一生懸命教えてくれるのですが、養蜂は教えてくれません。私の場合は”養蜂”という言葉さえ知らないところからのスタートで、インターネットの情報を参考に、自分で失敗しながら学びました。」

あけみ「これまででどんな失敗がありましたか?」

渡部さん「これからの季節はオオスズメバチがミツバチ自体を食べようと巣箱を襲いに来ます。最初は襲われる状況を見てただ驚いて、打つ手立てなくミツバチを全滅されてしまいました。今はオオスズメバチの性質を勉強し、ペットボトルで作った罠をしかけたり、巣箱の上に粘着シートを置いたりして退治しています。また冬にミツバチが寒かろうと巣箱を段ボールで囲ったところ中にダニが発生しミツバチを全滅されるなど、いろいろ失敗がありました。その一つ一つを解決していくのが楽しみでもあります。」

あけみ「瓶によってハチミツの色が違いますが、どういう違いがあるのですか?」

渡部さん「ミツバチは巣箱から2キロの範囲を飛び回って密を集めるので、その範囲内にある花の種類によりハチミツの色が変わります。また、花の種類は場所や季節、年によって変わるので、色だけでなく香りや糖度も常に変化します。うちは、山に咲く花々から集めた山蜜にこだわっており、出雲北山で採取しています。出雲北山は縁結びの神様である出雲大社をお護りしており、その神聖な山で作られるハチミツは希少で特別な山蜜と考えています。そして春に採れたものを『縁花蜜』、秋に採れたものを『百花蜜』と名前を変えて販売しています」

あけみ「お店でとても安いハチミツを見かける、ラベルを見ると中国産やハンガリー産だったりするのですが、国産のものとどこが違うのですか?」

渡部さん「純粋な非加熱ハチミツは殺菌・抗菌作用があり、古くから薬として重宝されてきました。近年では美容と健康の面でも大変注目されています。しかし、純粋な非加熱ハチミツだからこそ結晶化が伴います。結晶化というのはハチミツの性質上のもので、白く固まってしまうことです。(結晶化しから40~50℃のお湯で湯煎していただくと、元に戻ります)低価格の海外産ハチミツなどは結晶化を止めるために高温で熱処理し、成分が破壊されたものが瓶詰めされていると聞きました。」

あけみ「今、ハチミツは全国的にとても人気がありますが、『陽菜のはちみつ』はこれから規模を拡大されるお考えはありますか?」

渡部さん「私は養蜂で儲けようと思っているのではなく養蜂は生きがいなので、今の規模で続けられたらと考えています。ただ、養蜂をするためには巣箱など設備にお金がかかるので、ハチミツを販売してその費用に充てたいと思っています。将来的には、妻や娘夫婦と一緒に農業体験施設を作りたいと計画中です。『出雲のはちみつ』を乗せたパンケーキをその施設のレストランで提供したいなど、夢を膨らませています。」

1匹のミツバチが一生で集められるハチミツの量は、わずかティースプーン一杯だそうです。ミツバチさんが一生をかけて作ったハチミツを、大切にいただきたいと思います(あけみ)