森林セラピー®(2021年4月発行)

県土の8割が森林である島根県では、登山やトレッキングを気軽に楽しむことができます。私も時々、散歩程度の山歩きをしますが、花の香りや小鳥の囀り、忙しく動き回る昆虫の姿に心癒やされます。県の南部にある飯石郡飯南町は、“森林セラピー”に力を入れており、森を楽しむだけでなく、ストレス解消などの健康の側面からも森林を活用しています。今回は飯南町にある飯南町観光協会を訪ね、森林セラピーとはどういうもので、どんな効果があるのか、伊藤 和栄マネージャーにお話を伺いました。


あけみ「飯南町といえば“標高の高い山々に囲まれた町”というイメージがありますが、飯南町ではどういう理由で森林セラピーに取り組まれたのですか?」

伊藤さん「ここ飯南町の森林原野率は9割です。9割が森というこの場所で、豊かな森林資源を活用し産業に結びつけられないかということで始まったのが、森林セラピー事業です」

あけみ「“森林浴”という言葉がありますが、“森林浴”と“森林セラピー”は同じものですか?」

伊藤さん「“森林浴”は森へ行って“ああ、気持ちいいな”と感じるものですが、“森林セラピー”は、科学的に効果が実証されている森でその人その人に合ったプログラムを実施することにより、癒し・リラックス効果を得るものです。飯南町の『ふるさとの森』では平成18年に森林浴効果の生理実験が行なわれ、“一定の癒し・リラックス効果がある”と、『(特非)森林セラピーソサエティー』に認められ、森林セラピー基地となりました。森林セラピー基地は全国に65ヵ所ありますが、現在“特におすすめの基地”である【2つ星】に認定されているのは、ここ飯南町の『ふるさとの森』と長野県信濃町の『癒しの森』の2ヵ所だけです」


あけみ「森林セラピーは、どのような効果が期待できますか?」

伊藤さん「具体的な効果としては、血圧を下げたり、交感神経と副交感神経のバランスを整えリラックス状態にしたり、体の免疫機能を上げたりなどの効果があります。人間の祖先は類人猿でオランウータンのように森で生活していたので、人のDNAの中には“森の中は気持ちいい♪”という情報がインプットされています。森に恐怖感を持っておられる方は効果を得にくいのですが、ほとんどの方にはリラックス効果があります」


あけみ「森林セラピーは具体的に、どのようなことを行なうのですか?」

伊藤さん「お客様6名につき1人のセラピーガイドが、3時間のコースをお客様と一緒に歩きます。3時間というと結構長いように思われますが、ガイドの案内で歩くと、あっという間に時間が過ぎると思います。『ふるさとの森』のセラピーガイドは現在20名が登録しており、それぞれに得意分野があるので、できるだけお客様のグループにマッチしたガイドを選ぶようにしています。森の中でお茶を飲む時間に、抹茶の道具を持って行き野点をするガイドもいますし、自分でパンを焼いてきて皆さんにふるまうガイドもいます。子供さんがいらっしゃるグループには草の葉でバッタを作ったりするのが得意なガイドが案内したり。ガイドのリクエストも承ります。どのガイドが案内するかにより森の感じ方が変わり、コースも複数あるので、何度もリピート体験していただければと思います」

あけみ「森林セラピーはどの時間帯に体験するのが効果的ですか?」

伊藤さん「朝のセラピーがおすすめです。樹木が発散する揮発性物質に“フィトンチッド”があります。フィトンチッドはナチュラルキラー細胞の活性効果があり、人の免疫力向上が立証されています。木の葉は夜の間に二酸化炭素を取り込み酸素を出します。その時にフィトンチッドも一緒に放出するので、朝、フィトンチッドは私たちの目線の高さぐらいまで降りてきています。揮発性で陽が高くなると少なくなるので、朝のうちに森で深呼吸し、マイナスイオンと共に体に取り込んでいただくのが良いと思います。飯南町で宿泊し、翌朝、森林セラピーへ出発されることをおすすめします」

あけみ「森林セラピーにおすすめの季節はありますか?」

伊藤さん「フィトンチッドが最も多く発散されるのは春から夏にかけてですが、森は春・夏・秋・冬、それぞれ違う表情があるので、オールシーズンおすすめです。山野草が豊富な春、避暑に最適な夏、紅葉の秋、スノーシューで雪の上を歩く冬。小さな動物に出会うこともあり、私自身、何度森へ入っても新しい発見があり、ワクワクします。この森を大切に守り伝えていくのは私たちの役目と考えています。森の素晴らしさは言葉や写真では伝わりにくく、来て触れていただくことで初めてわかります。山頂に登り、昇る朝日をみんなで見ながら朝ごはんを食べる『天空の朝ごはん in 飯南!』など、森とふれ合う楽しい企画を考えているところです」