田守り麺(2021年7月発行)

島根県には、農業者の高齢化や担い手の不足などにより7,000ha以上の耕作放棄地があります。弊社は、田んぼが耕作放棄地にならないようにとの思いで、近所の田んぼを引き継いで昨年から稲作を行なっています。今回ご紹介する『木村有機農園』は、標高約530mの米作りが盛んな雲南市吉田町にあり、弊社が稲作を始める約11年も前から地域で稲作をやめる田んぼを引き継がれるようになり、その田んぼで作った米を加工した米粉麺を6年前から販売されています。有限会社 木村有機農園が経営する『レストラン 旬香』(雲南市三刀屋町)を訪ね、木村 和浩 社長にお話を伺いました。


あけみ「弊社が昨年からお米を作り始めたので、私も米や米の加工品に興味を持つようになりました。そんな中で木村有機農園さんの米粉麺『TAMAMORI』に出会いました。どういう意味の名前なのだろう?と思っていましたが、『田守り』と書くと知りとても興味を持ちました。どのような思いを名前に込めていらっしゃるのですか?」

木村社長「弊社の田んぼは雲南市の山奥にあり、私が子どもの頃は、稲穂が実る秋になると赤とんぼやイナゴが飛び交い、子供たちが競うように“稲はで”に登って遊ぶ、といった情景がありました。今でも田畑ばかりというのは変わらないのですが、高齢化・過疎化が進んだことで耕作放棄地が徐々に増えてきています。田んぼというのは放っておくと草が生えたり木が生えたりで、わずか1、2年で簡単に荒れてしまいますが、再び田んぼにしようと思ったら最低でも5年はかかります。私には、子供の頃から見てきた風景を守りたいという思いがあり、近所で辞める田んぼがあれば弊社で引き受けて米を作り、耕作放棄地にならないようにしています。その田んぼで、米粉麺の材料である“高アミロース米”を有機栽培で作っています。製品を作ることにより田を荒らさず田園風景が守られるということで、この米粉麺を『TAMAMORI(田守り)』と名付けました」


あけみ「『TAMAMORI』の原料である“高アミロース米”とは、どのようなお米ですか?」

木村社長「アミロースの含有量が非常に高い米で、特徴としては粘り気がなくパサパサしており、ごはんとして炊くと美味しくありません。しかし健康食としては大変優れており、食後の血糖値がとても緩やかに上昇し緩やかに下がって行きます。そのため、高血圧や血糖値が気になる方、ダイエットしたい方の食材として適しています。この高アミロース米を麺に加工したら美味しく食べられ、皆さんの健康に役立つのではないかと思い作り始めたのですが、近年、『TAMAMORI』は低GI食品であるということが、弊社と島根大学医学部との共同研究により証明されました。さらに、小麦粉を使わないグルテンフリー麺として健康面で評価され、グルテンフリー食品が見直されている海外からも商社を通じてご注文をいただいています」


あけみ「『TAMAMORI』は“つなぎ”の小麦粉や塩さえも使っていない正真正銘の100%米粉麺ですよね。私は蕎麦を打つのでよくわかるのですが、普通に考えると“つなぎ”なしではブツブツ切れてしまい麺になりません。『TAMAMORI』はつなぎなしでどうやって作られているのですか?」

木村社長「製法は企業秘密で言えませんが、アレルギーが起こらない100%無添加のものを作りたいとの思いで、5年かけて納得できる麺を作りました。5年間は何回試作を重ねても失敗の連続で、『無理なのかな?』と何度もあきらめかけましたが、色々な方との出会いがありアドバイスをいただきながら試行錯誤を重ね、『TAMAMORI』が完成しました。完成してみたらブツブツ切れるどころか結構なコシが出て、自分でも驚いています」


あけみ「『TAMAMORI』はレストランで食べることもできますか?」

木村社長「弊社は現在、雲南市にレストランを2店舗展開しており、『田守り麺』をはじめ地元産そば粉を使用した『十割出雲そば』などのメニューを提供しています。『田守り麺』はピリ辛だったり鍋焼きだったりバリエーションがあり、若い女性にも食べていただきたいので、クリームパスタ風などのメニューや、『田守り麺』の離乳食もあります。レストランには赤ちゃんがおられるご家族が結構いらっしゃり、離乳食があると喜ばれるのではとスタッフから提案があり、メニュー化しました。『TAMAMORI』を弊社産有機野菜と一緒に煮込んだもので、赤ちゃんにも安心して召し上がっていただけます」

あけみ「私が子供に離乳食を与えていた頃は、外出の時はタッパーに離乳食を準備しなければならず大変でした。ですので、安心して食べさせられる離乳食のあるレストランは本当にありがたいと思います」

木村社長「お客様のニーズをできるだけメニューに反映したいと考えており、離乳食は良い着眼点だと思いました。レストラン、産直、通販を通して多くの方が有機農産物に興味を持ってくだされば、昔ながらの田園風景を守っていけると思います」

『TAMAMORI』は美味しさだけでなく、環境のことや健康のこと、いろいろなことを考えた製品でした。社長のお話から、何事も信念があるなら、あきらめずやり通すことが大事ということを学びました。(あけみ)
『TAMAMORI』の三大特徴は、①完全無添加②低GI③グルテンフリー


木村有機農園が有機野菜を作り始めたのは約20年前。しばらくは形が悪いだけで売り物にならない野菜が収量の半分ほどあり、すべて廃棄していたそうで、作り手としては複雑な気持ちだったとか。今は廃棄していた不恰好な野菜をレストランで使うようになってロスが減り、気持ちも楽になったそうです。
レストランで提供されるのは、自社産有機野菜や自社ブランド『清水米』、地元産そば粉などの食材を使用したメニュー。