近年、SDGsや脱炭素、ゼロエミッションなど、より良い世界の実現を目指すという考え方が世界的に重視されています。
そんな中、農林水産省は昨年『みどりの食料システム戦略』という指針を打ち出しました。この指針は、農業の生産力向上と持続性の両立を実現するために策定されたもので、その中に“有機栽培”が重要な要素として取り上げられています。
“有機栽培”を重要視した指針が策定されたことは、循環型システムの中で農業を営むべきと考えている私たちにとっては「ようやく時代がやってきたな」という思いがあります。しかし、その一方で今回の指針は、ちょっと現実的ではないかな、無茶かなと思うところもあります。
例えば今、有機栽培が行なわれている田畑の面積は、全体の0.5%に過ぎません。それを『みどりの食料システム戦略』では、25%まで引き上げるとしています。
弊社の畑では、近くの牧場からの牛糞堆肥を使って土づくりをしています。どこの牧場も糞尿の処分には困っており、私たち有機栽培を行なう農家が発酵した糞尿を堆肥や肥料として使うことで、お互いにWin-Winの関係になります。もしもこういう使われ方をしないと、糞尿を廃棄処分するのに多大なエネルギーを使う一方で、エネルギーを使って作られた化学肥料の原料をエネルギーを使って輸入することになり、その現状を少しでも改善して地域の中で有機的なサイクルを回すのは、本来あるべき姿だと思います。
しかし、今後『みどりの食料システム戦略』として計画どおりに推進されると、面積にして現在の50倍になるということで、それほどの面積に見合った有機資材が必要になります。
ただ現実には、既に多くの牧場や養鶏養豚農家が廃業していて、今から増やすことは不可能ではないかなという水準にあります。増やそうと思えば、牛と鶏と豚の肉、鶏卵の消費量を増やし、牛乳を50倍飲もう、ということになり、さすがに厳しいだろうと想像できます。
そんなこんなで、国の官僚はもうちょっと現場のことを考えて『戦略』を練って欲しいなと思うものの、文句だけを言っても始まりません。狙い自体は良いことですし、私たち農家が「実現するにはどうすれば良いか」とか「そこはもう少し時間をかけて進めた方が良いのでは」といった、声を上げること、意見を出すことの重要性は高まるのかなと思っています。
時代背景も手伝い、これから有機栽培に対する理解が進んでいくことは間違いないようで、我々有機栽培農家にとっては追い風になるかも知れません。これまで有機栽培を実践してきたものとして、きちんと「みんなの幸せが広がっていく」ように努力したいなと思っています。